バベルの塔の狸
安部公房の「壁」をようやく書店で購入しました。
以前の記事で紹介したように、装丁が変更になりそうなので青緑色の背表紙が良いという方は早めに買っておいたほうが良いでしょう。
初めて読んだのは高校生の時ですから、だいぶ昔の話ですねぇ。
当時に比べると活字が大きくなって読みやすくなりました。
これは私の記憶違いかも知れませんが、以前は
「S.カルマ氏の犯罪」--「赤い繭」--「バベルの塔の狸」
だったような気がします。
手元の版では
「S.カルマ氏の犯罪」--「バベルの塔の狸」--「赤い繭」
でした。
極私的に痛快なのが「バベルの塔の狸」です。
ある詩人が、自分が空想した架空の動物(狸)に自分の影を喰われてしまいます。
影がなくなってしまった、という事は影を生成する自分の肉体が存在しない、ということを意味します。
詩人は影を失ったことにより透明人間になってしまう、というお話です。
安部公房の面白さは、主従の逆転だと言えますが、ここでは・・・
影と人体の主従・・・本来は太陽光を遮る人体が存在する(原因)から影が生成(結果)される。
だが、影の喪失(結果)が先に発生し、次に人体(原因)が消失して透明人間になってしまう。
という原因と結果の主従逆転がポイントです。
そもそも、詩人が空想した「狸」によって自身の存在を喪失させられてしまう、というのが最大の主従逆転なんですけどね。
これは、失踪人を追跡する探偵が最後は自我を喪失してしまう「燃えつきた地図」。
家を持たない主人公が突然糸を吐き出して繭(=家)に変身したが、今度は帰るべき自分がいなくなってしまった「赤い繭」。
ダンボール箱の覗き穴から世間を覗き見していた男が、やがて見られる立場に追い込まれてしまう「箱男」。
いずれも共通のモチーフだと言えるでしょう。
安部公房の死後にインターネットが急速に発達し、匿名性を保ちながら世界中の人々と交流を持つことができるようになりました。
「情報の発信」というのはマスコミや政治組織といった一部権力者の特権だったのですが、現在ではBlogや掲示板で誰もが情報を世界中に発信することができるようになりました。
もし、公房が存命なら(もしもの話は意味ないですが・・・)、今日のインターネット世界をどのように作品中で料理したのでしょうね。
そういえば、「方舟さくら丸」の主人公が楽しんでいた「立体航空写真」はGoogle Mapと酷似しているか・・・。これって引きこもりの生態を20年以上前に予言していたのでしょうか・・・?
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壁 著者:安部 公房 |


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